債権者保護手続

資本金の額の減少や,会社分割のような組織再編成を行う場合には,債権者保護手続が実施されることになります。具体的には,資本金の額の減少や組織再編成に異議のある債権者は,一定期間(最低1ヶ月以上)の間に異議を述べることができ,異議を受けた会社側は,交渉をして異議を撤回してもらったり,弁済をする等の対応をとることを迫られます。

この債権者異議ですが,異議を出したことも出されたこともありますが,係争性のある債権の場合は,非常に対応が厄介です。争っている以上,弁済をすることはできません。だからといって,債権者でないと無視をして,後日,訴訟等で債権の存在が確認されてしまった場合(=敗訴した場合)には,債権者保護手続に瑕疵があるということで無効原因になる余地が生じてしまいます。資本金の額の減少や,組織再編成が無効になってしまうと,IPOを目指しているベンチャー企業や上場企業にとってはかなりの痛手になります。手続を再度やり直すにしても,株主総会招集コストや時間のロス等有形無形のコストの負担は重たいです。

逆に,この立場を逆手にとって,債権者が交渉の手段として債権者異議を戦術的に使ってくることもあります。その場合の会社側の対応はなかなかきついものがあります。ちなみに,異議を出した相手方が上場企業であったにもかかわらず,無視されて?組織変更をされてしまったこともあります。

この点について,資本金の額の減少手続の際に,債権者異議が出た場合の対応が分かれた事例がありましたので,紹介させて頂きます。

ラオックス:手続を中止
http://www.laox.co.jp/laox/press2009/090814_2.pdf

コスモスイニシア:効力発生日を変更
http://www.cigr.co.jp/cosmosinfo/ir/ir_documents/img/03/ir_news_09/ir_news091102.pdf


資本金の額の減少の際には,会社分割の場合と異なり,効力発生日の変更について,公告が不要(法第449条7項,第790条参照)と定められていますので,効力発生日の変更がギリギリまで柔軟にできる余地があるようです(登記実務については確認をしておりません。)。ラオックスは,リスクを考慮して(又は効力発生日を変更しても債権者の異議が撤回されない。)手続を中止し,コスモスイニシアは効力発生日を変更して時間を稼いだのかもしれません。

その後,ラオックスは,改めて株主総会を招集するようですが,今度は,債権者異議が出ないのか,はたまたまた債権者異議が出てしまうのか,法務のご担当者はご苦労されておられるのかもしれません。

ラオックス:改めて臨時株主総会招集
http://www.laox.co.jp/laox/press2009/091022.pdf
http://www.laox.co.jp/laox/press2009/091104.pdf


いずれにしましても,係争中の案件がある場合の資本金の額の減少や,組織再編成にはお気をつけ下さい。

資本金

資本金の額が増加すると,それだけの資金調達ができる企業であるという意味で対外的な信用が増える面もありますが,


   ・会社法上大会社となり会計監査人設置が強制(資本金の額が5億円以上)
     →会計監査人との監査契約を締結する必要があり,監査コスト増になります。
   ・外形標準課税が適用される(資本金等の額が1億円超)
   ・交際費が損金不算入(資本金の額が1億円超)


ベンチャー企業にとってはできるだけ避けたいはずのキャッシュアウトが増えてしまう側面もあります。

そのため,増資の際には,払込金額の半分を資本準備金に組入れることで,資本金の額が増えることを可能な限り回避するようにアドバイスをすることが多いです。

もちろん,資本政策を策定して,「計画的」に資本金の額を増加させる場合は構いません。ただ,運転資金を調達するために増資を行ったのに,避けられるはずのキャッシュアウトが出てしまうことは非常にもったいないと思います。

また,(こんなことを書いてしまうと,会計士の先生に怒られてしまうかもしれませんが)IPOを目指されている場合は,社内体制ができていないのに監査法人と監査契約を締結してしまうと,いろいろと後が大変です。

その場合,減資を行って資本金の額を減少させるという対応があります。会社法では,大会社の判定時期は事業年度末ですので,期中に資本金の額が5億円未満になるように減資を行うことができれば,大会社になることを回避できます。

ただ,会社法上の「資本金の額」と,税務上の「資本金等の額」の概念は違います。そのため,会社法上の減資を行っても,税務上の資本金等の額は直ちには減少しませんので,税務上のキャッシュアウトの増加を止めることはできません。

「資本金等の額」を減少させるためには,有償減資をすることになりますが,これは会社から資金流出を伴いますので,非常にやっかいです。

という次第ですので,キャッシュフローのためには,増資の際には払込金額の半分を資本準備金とすることを忘れないようにして頂ければと思います。